真っ赤なジャケット
これは私が大学生の頃の話である。
涙が出るほど笑った経験、その記憶の糸をたどってゆくと、どうしても紹介したくなる話がある。
それは坂本君の話だ。
彼は毎日、真っ赤なジャケットを着て登校してきた。
何を着ようと本人の自由で、他人がとやかく言うべきことではない。
彼はそのファッションから多くの誤解を生んでいたのは間違いない。
そんな奇抜な格好をする人間というものは自己顕示欲が強い、目立ちたがり屋、ファッションにこだわりがある、そんな人物像を想像される方も多いと思う。
だが、彼は学業優秀で、性格はひかえめでおとなしい、誠実で温厚なタイプ。ジャケット以外のグッズにこだわりを持っているようには見えない。容姿もイケメンとまではいかないまでもごく普通の青年だ。
なぜそんな格好をするのか?どうしてもわからなかったのである。ファッションだけがズレていたのだ。
坂本君のファッションについては仲間内でも議論された。
「やつは、芸能人気取りか」
「あんなジャケットは普通の店では売っていない。どこで買ったのか?」
「ファッションというものは親から子へ伝染する。そもそも親のファッションがそうだったのではないか?」
「彼は色盲で、赤という色が見えないのではないか」
などなど。
だが、結局どうしてもわからない謎となってしまったのだ。
人はどんなときに面白いと思うのか?
それは、他人の行動がどうしても理解できない時に起こる。
これからも自分の理解を超えたものに出会ってゆきたいと思う。
世の中は不思議なことで満ちあふれている。
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